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やっぱり高度経済成長は復活できる

やっぱり高度経済成長は復活できるの写真

本書は、日本経済には高度経済成長を復活させる潜在力が十分に残されており、その最大の鍵は、これまで低賃金・不安定雇用に押し込められてきた女性の能力を正当に活用することにあると論じた一冊である。
著者はまず、積極財政という言葉の意味を整理する。国民が自ら稼いだ所得を、消費・投資・政府支出に振り向けているだけならば、それは積極財政ではない。国債などによって外国人投資家や将来世代から資金を借り、現在の支出を拡大することが、本来の積極財政であるという(p47)。
インフレについては、物価上昇率が4%程度に達すると、「さらに値上がりする前に買おう」という心理が働き、消費が前倒しされ、物価上昇がさらに加速する危険があると指摘する。日本がこの悪循環を避けられたのは、国民全体が貨幣の流通速度を抑え、消費を急激に増やさなかったからである(p54)。
しかし、その一方で日本の家計は長期間にわたり犠牲を強いられてきた。現在と1994年を比較すると、世帯所得は約20%減少しているにもかかわらず、政府税収は43%増加し、企業の内部留保は3倍以上に膨らんだ。輸出企業は海外ではインフレ分を価格に転嫁しながら、国内では円安によって安くなった労働力や資材を調達したため、企業利益を増やすことができた(p60)。つまり、日本経済の停滞は、企業が稼げなくなったというより、企業利益が家計所得へ十分に還元されなかったことに原因がある。
対外経済についても、日本は一般に考えられているほど弱くない。貿易収支が赤字化しても、海外投資から得られる利子・配当などの第一次所得収支が巨額の黒字を維持しており、外貨不足への懸念は杞憂となった(p69)。また、国家債務への懸念が薄れ、日本国債への需要が高まれば、日本国債を購入するための円買いが増える。日本国債は円建てでしか発行されておらず、資金捻出のために米国債が売られれば、円高・ドル安を招く可能性がある。GPIFが日本国債の保有比率を引き上げたことも、その兆候として紹介されている(p76)。
エネルギー問題でも、日本には大きな強みがある。重要なのは輸入量や輸入先ではなく、一定額のGDPを生み出すために必要なエネルギー量、すなわちエネルギー効率である。日常の移動に大型自動車を必要とする欧米に比べ、日本は大都市圏では鉄道、地方では軽自動車、自転車、バイクを活用できる。このため、日本経済はエネルギー需給の逼迫に強い構造を持っている(p79)。
それでも日本経済が成長できなかった最大の理由として、著者は女性労働力の未活用を挙げる。日本では就業人口の約70%を男性、約30%を女性が占め、雇用契約、賃金、就労環境に明確な男女格差が存在する(p91)。日本女性は読解力や数学力など、効率的に働くための基礎能力が国際的に見ても高い。それにもかかわらず、賃金が低く、責任ある地位や長期的な雇用機会が与えられないため、完全に就労を諦めたり、短時間勤務にとどまったりする女性が多い(p121)。
1980年代半ば以降、女性の就業率は上昇したように見えるが、実態は「専業主婦からパートタイム・低賃金労働への移行」にすぎなかった(p129)。男性が大企業に正規雇用されれば、定年までの雇用と一定の賃金が保証される一方、女性は同じ企業に入っても同等の待遇を受けにくい。著者は、日本型雇用制度を「男性だけが入ることを許された花園」と表現する。日本の男女間年収格差はOECD諸国の中でも突出して大きい(p137)。
子供のいない正規フルタイム労働者同士で比べても、日本の男女賃金格差は23%に達する。非正規・不定時間就業者を含めれば、子供を持つ男女間の所得格差は2倍から3倍にもなる(p147)。特に深刻なのがシングルマザーである。著者は、同一職種・同一労働時間であれば、正規・非正規を問わず同一賃金とし、週35~40時間働くシングルマザーの所得を、おおむね3倍に引き上げるべきだと提唱する(p175)。
少子化についても、単純に「子供を産む人数が減った」と捉えるべきではない。最も一貫して低下しているのは第一子の出生率であり、第二子以降の出生率はそれほど下がっていない。つまり、子供を持つと決断した家庭の子供数は大きく変わらず、「経済的に子供を持てない」と判断する世帯が増えたことが少子化の主要因である(p189)。
日本の労働生産性が上がっていないという通説にも、著者は異議を唱える。労働者一人当たりの生産性は低下していても、労働時間一時間当たりの生産性は着実に上昇している。総労働時間が減少したため、一人当たりの生産性が低く見えているだけである(p200)。非正規雇用や短時間勤務者を増やし、限られた労働時間で仕事をこなさせた結果、時間当たり生産性は上昇したが、所得と総需要が伸びず、実質GDP成長率が低下した(p202)。
著者は、日本経済の再生と少子化の克服には、女性が普通に正規・定時就労できる社会をつくり、雇用契約、就業環境、賃金における男女格差を解消することが不可欠だと結論づける。日本は、男女間年収格差、子供を持つ男女の賃金格差、女性研究者比率、女子生徒の理数系進学率、妻の所得が夫と同等以上の世帯比率という五つの分野で、OECD諸国の中でも最悪の水準にある。これは女性自身への不利益であるだけでなく、日本経済全体にとっての「五大災厄」である(p243)。
日本には、対外資産、エネルギー効率、高い労働能力といった成長の基盤が残っている。高度経済成長を復活させるために必要なのは、新たな能力を国外から探すことではなく、すでに国内に存在しながら十分に活用されていない女性の能力に、正当な雇用と報酬を与えることである。