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あり金は全部使え

あり金は全部使えの写真

本書で堀江貴文氏が一貫して訴えているのは、お金を貯め込むのではなく、経験・知識・人との出会い・行動のために使うことで、自分自身の価値を高めよという考え方である。お金はそれ自体に価値があるのではなく、人間同士の信用を数値化した道具にすぎない。だからこそ、ただ保有するよりも、適切に使うことで信用や経験が積み重なり、新たな生産と価値の循環が生まれる。もしもの時に本当に役立つのも、預金額そのものではなく、お金を使って身につけた知恵や豊かな経験である(P8、P65)。
著者は、人生には、その時にしかできないことがあると強調する。やりたいことをやるべき時期に、お金や時間を投じなかった失敗は、後からどれほど努力し、資金を注いでも取り戻せない。若い時の挑戦、体力のある時期の旅行、人との出会いなどには「旬」があり、その機会を逃すことこそ最大の損失である(P10)。したがって、将来の不安だけを理由に貯蓄を続けるより、現在の自分を成長させるために使う方が、人生全体では大きな価値を生む。
一方で、著者は無計画な浪費を勧めているわけではない。借金についても、金利以上の収益が期待できること、返済の見込みがあること、金利が妥当であること、という三条件を満たすものだけを「してもよい借金」と定義する。それ以外は悪い借金であり、避けるべきだとする(P77)。また、貸した金を平気で返さない相手とはきっぱり絶縁すべきだとも述べ、人間関係における信用の重要性を説いている(P45)。
稼ぎ方については、労働所得と資本所得に本質的な優劣はないとする。日本社会には、額に汗して働くことだけを正しい稼ぎ方とし、投資や資本運用による利益を否定的に見る風潮が残っているが、著者はそれを古い価値観だと批判する(P54)。また、今後の株価の伸びしろという点では、日本株への投資に期待できるという著者個人の見解も示されている(P91)。これは投資に関する著者の判断であり、将来の成果を保証するものではないが、資本を働かせることを正当に評価すべきだという思想の一例である。
本書では、行動力を失わせる最大の要因として、同じ場所や人間関係にとどまり続けることが挙げられる。会社、家庭、地域など一つの共同体に長く閉じこもると、入ってくる情報は偏り、人脈も狭くなる。情報不足は視野を奪い、成長の機会を失わせる(P108)。そのため、昔からの付き合いを惰性で続けるより、ビジネスなどで出会った面白い人物から誘われた場には積極的に参加し、偶然の出会いや思いつきを行動につなげるべきだとする(P164)。
テクノロジーの進化によって、人間の可処分時間は今後さらに増えると著者は予測する。AIが仕事を奪うかどうかという議論よりも、労働から解放された時間をどう使うかが重要になる(P121)。そして、お金以上に貴重な資産は時間であり、時間を成熟した形で使える人が評価され、結果として経済的成功以上の見返りを得ると述べる(P203)。本書の「あり金は全部使え」という主張は、単に消費を増やせという意味ではなく、限られた時間を最大限に生かすためにお金を使え、という時間論でもある。
人口減少や高齢化についても、著者は悲観だけでは捉えない。日本の壺型の人口ピラミッドは、敗戦後の復興と、資源の乏しい中で世界と競争してきた世代の努力の結果でもあると見る(P133)。また、趣味や娯楽に使える資金を持ち、健康意識や就労意欲も高い65歳から75歳のアクティブシニアは、今後有望な市場である。シニアビジネスは、変化する市場の中で高い可能性を持つ領域だと指摘する(P135)。
行動する際に重要なのは、「どうせ無理だ」と考えず、自分ならできると確信してまず動くことである。成功する方法は、考え続けるだけではなく、動いているうちに見つかる。実際に行動に移す人はごく少数であり、挑戦するだけでも希少な存在になれると著者は励ます(P149)。また、他人の意見に従うのではなく、自ら決めたルールで動くことも勧める。趣味、恋愛、仕事のいずれでも、自分で計画し、自分の方法で実行することで、工夫する喜びや達成感が生まれ、思いがけない縁や展開も引き寄せられる(P169)。
人との関係では、能力や肩書きだけでなく、清潔感や大人らしさも重要とする。身だしなみを整えることは、相手への最低限の配慮であり、対人関係の印象を大きく左右する(P157)。さらに、読書については、思考力を保つために有効だと認めながらも、それが唯一の方法ではないとする。魅力的な人物に会うことや、珍しい場所へ出かけて面白い体験を重ねることも脳を刺激する。時間対効果という面では、読書だけに閉じこもらず、実体験を重視すべきだという主張である(P219)。
物への執着も行動を妨げる。不要な物は捨て、抵抗があるなら他人に譲り、身軽になることが大切だと説く(P233)。著者が最終的に目指すのは、単なる金持ちではない。「あの人と一緒にいると面白い」と思われるような、行動的で魅力ある人間になることである。金持ちになりたいという欲望は不安の裏返しであり、経験や人間的な価値を高めれば、結果としてお金に縛られない「マネーフリー」の人生に近づく(P263)。
そのためには、複数の肩書きや能力を持つことも有効である。三つの分野を掛け合わせれば、100万人に一人の希少な存在になれる。そのためには、常識的なバランスに収まらない行動力と、時間・お金の大胆な投資が必要である。社会が避けがちな偏った経験こそ、お金以上の価値を持つ場合がある(P267)。
最後に著者は、遠い未来を考えすぎることにも否定的である。未来志向は不安を膨らませ、現在の行動を制限することがある。目標を持つこと自体は悪くないが、設定したゴールが目的化すると、それを達成できなければ失敗だという思考に陥り、別の可能性が見えなくなる(P277)。だからこそ、未来を過度に設計するのではなく、今この瞬間に興味を持ったことへ時間とお金を投じ、まず動くことが重要なのである。
本書が説くのは、浪費のすすめではない。お金を経験、知識、人間関係、挑戦へと変換し、自分の価値を高めるための積極的な投資論である。貯金そのものを人生の目的にせず、限られた時間を豊かにするためにお金を使い、行動し続けること。その先に、お金への不安から自由になった、面白く価値ある人生が開けるというのが、本書の中心的なメッセージである。