本書は、日本の天皇が世界でも例のない長い歴史を持ち、現在まで皇統が維持されてきた理由を、男系継承、日本文明の特徴、そして権威と権力の分離という視点から論じたものである。
著者はまず、日本の皇室が男系によって皇統を維持してきたことを説明する。欧州では、女系による継承が行われると王朝が交代したものとみなされ、王朝名そのものが変わる。例えば現在のイギリス国王チャールズ3世はウィリアム1世の血統を引くものの、王朝名はノルマン朝ではなくウィンザー朝である(P9)。男系継承という基準で見れば、日本だけが同じ皇統を維持し続けてきた唯一の国家であると位置づける。
男系継承にこだわった理由は、単に血統維持ではなく国家の同一性を守るためである(P20)。女系継承を認めれば、外国へ嫁いだ皇女の子にも継承権が生じ、外国勢力が王位継承に関与する余地が生まれる。ヨーロッパではこの問題から14世紀から18世紀だけでも20回以上の継承戦争が発生した(P20)。日本では内親王が結婚すると皇籍を離脱する制度を設け、外部の男性が皇族となることを認めなかった(P23)。著者は、この制度は女性差別ではなく、一般男性も皇族になれないという意味で「男性差別」であると説明している(P24)。
さらに、日本列島では異なる男性系統が共存し続けてきたことにも着目する。出アフリカ後の複数のY染色体系統が現在も日本に残っていることは、日本列島で男性の大量虐殺が繰り返されなかった可能性を示しているという(P30~P32)。この点も、日本文明の連続性を支える背景として紹介される。
農耕文明についても、著者は家畜との関係を重視する。世界各地では農耕と牧畜が一体となって発展し、家畜は労働力であると同時に肥料供給源でもあった(P38)。人類は羊・ヤギ・牛・馬・豚など14種類ほどの家畜を利用し農業生産性を高めてきた(P39)。
しかし日本には独自の発展があった。縄文時代には糸魚川産の翡翠が最高級の装飾品として珍重され(P44)、さらに日本人は世界で唯一、麹菌を「家畜化」した民族であると述べる(P47)。動物ではなく微生物を利用して酒・味噌・醤油などの発酵文化を発展させたことは、日本文明の独自性を示す象徴として位置づけられている。
本書の中心テーマは天皇の役割である。日本の天皇は、西洋や中国の皇帝のように財産や権力を独占する存在ではなく、「国民のために祈る存在」である(P77)。政治権力を持たず、政治判断もしないが、長い歴史に裏付けられた権威を持つ。この「権威はあるが権力は持たない」という構造が、日本皇室最大の特徴である(P77)。
この仕組みは聖徳太子による制度改革によって確立した。崇峻天皇の死後、政治制度は大きく改革され、天皇は権威を担い、政治権力は別に置くという「権威と権力の分離」が制度化された(P113)。著者は、この構造が現在まで皇統が維持された最大の要因であると考えている。
また、日本には皇室以外にも長寿組織が多い。578年創業の金剛組は世界最古の企業であり、世界の千年企業の過半数は日本企業である(P79)。著者はこれを、日本社会全体が「継続」を重視する文化を持っている証拠として紹介している。
現代の皇位継承問題については、旧宮家の皇族復帰を現実的な解決策として提示する。特別立法により皇族復帰が可能であり、男系男子が現皇室へ復帰すれば皇室典範の改正を伴わずに対応できる可能性がある(P143)。
また、歴史上には男系を維持するため、数百年前までさかのぼって皇位継承が行われた例が複数存在する。武烈天皇後には約200年前の男系血統まで遡り継承が行われるなど、男系維持が一貫して優先されてきた(P147)。
本書を通じて著者が一貫して伝えているのは、日本の皇室は「権力者」ではなく、「祈る権威」として存在してきたこと、そして男系継承と権威・権力の分離という制度が、日本という国家の連続性を支えてきたという点である。日本文明を理解するには、歴史上の出来事だけでなく、それを支えてきた制度と文化の継続性を見ることが重要であると結論づけている。