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拡大画像を表示 何が日本経済を壊したのか 「失われた30年」の謎を解く18の経済講義

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本書は、日本の「失われた30年」の原因を分析するとともに、成長を取り戻すための政策を具体的な数字で示す。中心となるのは、企業と政府の支出によって所得を増やし、投資と成長が循環する経済へ転換することだ。
出発点は「誰かの支出は誰かの所得」という関係である。政府や企業が支出を減らせば、家計の所得も減る(p33)。経済各部門の収支はつながっているため、「赤字は悪」という見方だけでは経済全体を理解できない。家計、企業、政府に海外部門を加え、誰の黒字を誰の赤字が支えているかを見る必要がある(p34、p111)。
著者らが問題視するのは、日本企業が約30年にわたり貯蓄超過を続けてきたことだ(p48)。企業の支出には、現在の事業を維持する経費と、将来の成長に向けた投資がある(p52)。利益を上げていても、借入などによって投資を拡大すれば、資金収支は赤字になり得る。これは事業の採算悪化とは異なる、成長のための赤字である(p54)。企業は本来、資金を調達して投資し、所得と経済成長を生む。しかし日本では、バブル崩壊による財務の毀損を契機に、投資より借金返済を優先し、資金を蓄積する主体へ変わった(p58、p65)。
企業の投資不足は、家計所得と税収を減らす。著者らは、企業貯蓄率と財政収支の逆相関に注目し、企業が黒字を続ける状況では、政府の赤字が家計所得を支える役割を果たしてきたと説明する(p100、p105)。輸出による経常黒字も、国内の需要不足を十分に補うとは限らない。日本経済を支える中心は、家計消費や企業・政府の投資などの内需である(p117、p120)。
この構造を捉える指標が「ネットの資金需要」だ。著者らは、2000年頃から企業の貯蓄と政府の支出が相殺され、この指標がほぼゼロで推移したことを、名目GDPが拡大しなかった原因と見る(p129)。家計貯蓄率の低下も、高齢化だけではなく、所得を生む資金需要の弱さと結びつける(p132)。銀行融資は、貸出と同時に預金を生む信用創造であり、返済は預金を消滅させる(p141)。企業が借入と投資を控える時には、政府が財政支出を増やし、経済全体の資金需要を補う必要があるという主張だ(p160)。
成長への具体策は、数年にわたり財政赤字を拡大し、ネットの資金需要を対GDP比マイナス5%程度に維持することである。著者らは、この規模を年間約30兆円と示す。国債発行で財源を確保して継続的に支出することで、名目GDP、すなわち経済のパイを膨らませるという提案だ(p165、p167)。 一度だけの景気対策ではなく、企業が投資を増やせる需要環境を、数年にわたって作る点が重要となる。なお、この約30兆円は、本書の想定に基づく財政赤字・支出の目安であり、国債発行総額や、企業収支にかかわらず固定された必要額という意味ではない。
この提案は、物価上昇の種類とも関係する。需要拡大によるデマンドプル型インフレと、原材料費などの上昇によるコストプッシュ型インフレは区別すべきだとする(p81)。輸入物価の上昇と国内所得の増加は同じではない(p163–164)。円安で貧しくなったという実感の根底にも、長年にわたり名目GDPと所得が十分に増えなかった問題があると見る(p168)。一方、米英のコロナ期のように資金需要を大幅に拡大すると、高インフレという副作用も生じるため、規模の管理が必要だと説明する(p171)。
財政については、国家と家計・企業を同じ尺度で考えるべきではないと説く。自国通貨を発行する国家と、共通通貨ユーロを採用したギリシャでは、債務返済の条件が異なる(p176、p178)。政府の負債は保有者の資産でもあり、政府保有資産や利子収入を含めて評価する必要がある(p187、p192)。著者らは、政府と企業の純負債を合わせて見ると、日本では資金需要の過熱による金利上昇圧力が弱いと論じる(p212)。
政策上の失敗として挙げるのが、1997年の消費税増税である。企業支出が金融危機で縮む局面に緊縮政策が重なり、デフレを深めたと批判する(p247)。本書が扱う物価上昇局面でも、コスト上昇だけでは、長年の需要不足が解消したとはいえない(p313)。
今後は、官民連携による戦略投資を通じて、他国への依存を減らす危機管理投資と、強い産業を伸ばす成長投資を進めるべきだとする(p237)。財政で需要を強める「高圧経済」によって、企業を貯蓄超過から投資超過へ転換させることを目指す(p315)。さらに著者らは、需給ギャップをプラス2%、ネットの資金需要をマイナス5%程度に保つことで、物価上昇率2%と名目GDP成長率3%を持続できるという試算を示す(p325)。規制緩和も、需要不足時には過当競争や賃金低下を招く場合があり、経済の状態に応じて判断する必要がある(p332)。
本書の核心は、停滞の原因を説明するだけでなく、財政によって需要を育て、企業投資と家計所得の循環を回復する道筋を示すことにある。年間約30兆円という規模を伴う継続的な財政支出を起点に、民間が再び投資する経済へ変えることが、著者らの提案する成長戦略である。

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