本書の目的は、特定の投資商品を勧めることではなく、「投資家の視点」から2030年以降の社会を予測し、その変化にどう備えるかを考えることにある。著者が中心に据えるのが、指数関数的に進歩する「エキスポネンシャルテクノロジー」である。AI、IoT、ロボット、自動運転、3Dプリンター、通信技術などが個別に進歩するだけでなく、相互に融合することで、2030年から社会変化が急激に加速すると著者は予測する。(p15~19)
その変化を理解する鍵が「エキスポネンシャルの6D」である。テクノロジーは「デジタル化」「潜伏」「破壊」などの過程を経て、既存の商品やサービスを「非物質化」し、最終的には低価格化によって「大衆化」する。例えば自動運転タクシーが普及しても、その後に空飛ぶ自動運転車が登場すれば、前者すら消滅する可能性がある。新技術はより優れたサービスを無料に近い価格で提供する一方、既存産業にとっては「6人の死神」となり得る。(p25)
著者はこの視点から、日本の自動車産業にも強い危機感を示す。トヨタをはじめとする日本企業が既存技術を守る間に、ウェイモ、テスラ、アップルなどがEVや自動運転を進化させれば、従来の競争力が根底から破壊される可能性があるという。また、日本政府がリーマンショック後にエコポイントやエコカー補助金などで既存の電機・自動車産業を保護したことが、新しい成長産業への転換を遅らせたと批判する。(p26~27)
では、個人はどう備えるべきか。著者は三つを挙げる。第一に、現在の産業が淘汰される可能性があるなら、新しいテクノロジーを学び直し、成長産業へ移ること。第二に、寿命が120歳に延びる可能性を考え、65歳で完全に仕事を辞めるのではなく、できるだけ長く働くこと。第三に、長寿によって長くなった投資期間を活用することである。著者の計算では、年率7.2%なら元本は20年間で約4倍だが、55年間では約45倍になる。長寿を「老後資金が不足するリスク」だけでなく、「長期投資ができる機会」として捉えている点が特徴的である。(p31)
技術面では、まずIoTと通信の爆発的拡大を予測する。2030年にはインターネットにつながるデバイスが1兆を超え、6Gによって膨大な数の機器が接続され、家庭内のあらゆる物に小型チップが埋め込まれるという。(p55)
さらに重要なのがAIである。2021年時点のAIは、数値解析、音声認識、文章認識、画像認識など、特定用途に対応する「弱いAI」の段階にある。しかし著者はカーツワイルの予測を紹介し、脳科学、ナノテクノロジー、ロボティクスが相互作用し、2029年頃には人間のような汎用的思考を行う「強いAI」が誕生、2030年から変化が一段と加速し、2045年にはシンギュラリティを迎えるとする。(p67、79)
その先には、人間の脳とコンピューターの直接接続がある。ブレイン・マシン・インターフェースによって、人間の思考をコンピューターに送ったり、クラウド上の情報を脳へ送り返したりする。さらに脳と脳をクラウド経由でつなぐ、いわば「テレパシー」のような情報伝達まで著者は展望する。(p91、103)
この変化によって、現在のスマートフォンやパソコンも主役の座を失う。ウェアラブル機器やゴーグルを介して脳とクラウドが直接つながれば、検索、コミュニケーション、買い物などはメタバースやホログラム上で行われる。これはMicrosoft、Apple、Google、Facebook、Amazonといった巨大IT企業の勢力図まで書き換える可能性がある。(p101~112)強いAI実現の条件として、著者はコンピューターの処理能力、大量のデータ、神経科学の三つを挙げる。(p115、126)
自動運転とシェアリングも「所有」という経済の前提を変える。現在の自動車は大半の時間が駐車されたままだが、無人自動運転車を必要な時だけ利用する社会になれば、著者は先進国の自動車台数が大幅に減少すると予測する。(p129)さらに住宅や自動車のシェアリングが広がれば、新規需要だけでなく銀行の住宅ローンや自動車ローンにも影響が及ぶ。(p190)
こうした変化は突然生じるのではない。コンピューティングは、電気式計算機、リレー式計算機、真空管、トランジスタ、集積回路という複数のS字カーブを連ねながら、全体として指数関数的に発展してきた。著者は2020年頃から「3Dコンピューティング」という新しいパラダイムが始まり、技術進化がさらに加速すると見る。(p268)
一方、日本経済について著者は厳しい評価をする。過去25年間、GDPが500兆円程度でほぼ成長しなかった背景に、ゼロ金利と円安誘導、そして既存の電機・自動車産業を温存してきた政策があると主張する。それが新しいリーディング産業の誕生を妨げ、日本人を豊かにできなかったという。(p281)
したがって著者が描く未来は、単純な技術楽観論ではない。コロナ後には大倒産・大失業が起きる一方、「6D」の波に乗った新しい企業や産業が生まれる。既存企業や現在の職業が残ることを前提にするのではなく、技術の指数関数的変化を投資家のように先読みし、学び直し、長く働き、長期投資を行うことが、2030年以降を生き抜くための備えだというのが本書の中心的な主張である。(p16、31、291)
summary
2030年すべてが加速する未来に備える投資法 マネー視点から見える未来